次に

戻る

TOP

炎情

明治45年5月。
晶子は子を置いてシベリア経由で、前年渡欧した夫鉄幹を追って巴里に着く。
5月の仏蘭西の麦畑は、ヒナゲシが飛び火のように真っ赤に野に燃える。
その炎は−−−−3千里を旅してきた私の心。
そして、それは、私を待っていたあなたの心。

燃え乱れるヒナゲシの赤い波に、晶子は女のうねるような情念を高ぶらせる。
その蕊は「性」を謳歌して、晶子は、その開放の姿に女の自立を見る。
シベリヤを越えて掬う自由と開放である−−−−−.
 

    子をすてて君にきたりしその日より

           
    物狂ほしくなりにけるかな       晶子


同じ風景をモネも描いた。  (Les Coquelicots 1873)
緑の野原に赤一色に咲き乱れるヒナゲシの風景。
野に遊ぶ二組の親子。
輝く光、ゆるやかに流れる白い雲。
妻カミーュは青い日傘をかろやかに風にまかせる−−−−−.
家族を見つめる−−−−モネの幸福が伝わってくる。

シンビの原種には、赤色の花はない−−−.
私は、この赤が、この燃える赤が、咲き乱れる赤が欲しかった。
私の赤花は、型にはまった丸弁整形花ではない。
それは、私の炎情を表わす花だからである−−−.

炎の想いは、決して、シンメトリックな心理構造ではない。


                                         宇井 清太

 Beauty Promenade

95−280
Beauty Promenade

あなたを追って、ようやく仏蘭西にたどり着いた。五月の仏蘭西。野はヒナゲシで真っ赤に燃えている。思えば、あなたも、私も・・・・燃えるヒナゲシ。

Fervor
ああ皐月仏蘭西の野は火の色す
   君もコクリコわれもコクリコ


         
与謝野 晶子

kesi1